ハッピーエンドな旅の途中で。

生きてる事は旅すること。旅とは移動の有無ではなく、生きるスタンスそのもの。

【本】献灯使 多和田葉子 著 2014年 均質化への抵抗

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多和田葉子さんの献灯使読了です。
伊丹〜羽田1.5往復くらいなので、
約3時間くらいか。

 

献灯使は本のタイトルですが、
本編とその他のお話で構成された出版物です。

それぞれの話に繋がりはないのですが、
被災するという意味では共通しているものがあります。


全米図書賞〈翻訳文学部門〉を受賞しております。


ちなみに
英訳版 のタイトルはThe Emissary
意味は使者、密使、スパイ。


と献灯使のイメージがギリギリ掴んでる感じですが、本作の内容からはピッタリとは思いません。


タイトル作の献灯使の感想としては、

ずっと何言ってんねん。


というツッコミが終始頭の中で鳴り響き、
読後に感情の落とし所を迷う作品です。

 

少し、感想を熟成させないと
作品と自分の距離感を見出せませんでした。

 

次の作品に行くためにも、
こうして文面に落とし込んでいる訳です。

 

小説というとプロット(設定)があり、
登場人物達が言葉を用いて、感情のやりとりの中でストーリーを展開させ、
読者をその世界に連れてくるようなイメージですが、本作はそうではないのかなと思いました。

 

逆に言葉が物語の世界を広げていくような作品でした。

まず主人公が、
ひ孫とひお爺ちゃんという、想像付かない人間関係から始まります。

 

104歳の老人である主人公は毎日ジョギングしたりとすこぶる元気です。対して
若いひ孫は自分で歩く事も難しく
食事も液体の物を咳き込みながら飲み込むのがやっと。そして性別もあるのはあるけど、1-2回生きてるうちに変わるという、謎設定からスタートなんです。

 

設定を書き連ねると

・東京は長く住めば健康に良く無い危険地帯に
・鎖国状態にあり、外国語がゆるく禁止され、インターネットも無い
・動物は繁殖させている犬くらいしかいない
 

そして、外来語も禁じられているので、当てられる言葉が面白い

・ジョギング→かけおち
・made in ○○→ ○○まで
・ターミナル→民なる

 

そして、極め付けは国民の休日の名前が
新しくなったり配慮によって名前が変えられてるのも面白い

 

・勤労感謝の日のは、働きたいけど働けない人に配慮して、生きてるだけでいいよの日に

 

・体育の日は、運動したくてもできない若者の為に、からだの日

 

・インターネットが無くなった日を新しい祝日として「御婦裸淫の日」オフラインの当て字

 

そんな風になかなかにエッジが効いている。

これはまだとっつきやすい部分である。


と、言葉がこのデストピアな世界観を表現し、
読者の中にある献灯使の世界を広げていくという
構図かと思う。

 

多和田葉子さんはドイツに在住の作家さんで、
早稲田大学文学部を卒業されてから、就職されその後ドイツにて博士号を取得されている。


日本語との距離感もあり、独特の言語への
理解があるように感じる。

 

直線的な言語による物語の進行というより
言葉のもつ音によって、想像上の物語の世界を拡張させていくようか印象を持った。

 

とっつき易いような、
とっつきにくいような、

不思議なディストピアを
描いた本作が何故全米図書賞を受賞したのだろうか。

 

コロナ禍の文脈かと思いきや、2019年なので、
コロナのコの字も知らない時である。

 

それはもしかするとトランプ政権真っ只中の
均質化されていく価値観に
危機感を覚えたアメリカの方々の心に響いたのかもしれない。

 


情報化社会という言葉自体が陳腐化し、
情報をより正確に、より早く、人に伝える手段は増えた。

 

しかし、言葉自体かもつ音による自由な広がりや
それぞれの言葉がつながる面白さなどを受容する感受性を欠いてはいないだろうか?

本作の何いうてんねんのツッコミに対する
回答を以上ダラダラと書いてみた。

 

以下

 

参考リンク

 

多和田葉子さんWikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/多和田葉子


なぜアメリカで評価されたのか?
とても分かりやすい
https://gendai.media/articles/-/58960?page=2


翻訳したマーガレットさんの対談ログを発見
これは尊い。

https://www.waseda.jp/inst/wihl-annex/interviews/914